年末調整の差し戻しが多い書類|原因は「年収」と「所得」の取り違え

年末調整の申告書を1枚ずつ確認する経理担当者のイメージ

「この申告書、また差し戻しか……」

年末調整の書類を確認していると、同じところで何度もつまずく書類があります。私は中小企業で経理を20年やっていて、いまは150人規模の従業員の申告書を確認する立場にいます。この記事では、差し戻しが一番多い書類と、その根っこにある原因についてお伝えします。

年末調整の申告書を1枚ずつ確認する経理担当者のイメージ
年末調整の申告書を1枚ずつ確認するイメージ
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差し戻しが一番多いのは、扶養控除等申告書です

私の場合、差し戻しになる書類の中で圧倒的に多いのが扶養控除等申告書です。多い間違いは、扶養者の年収と、配偶者の有無の2つに集中しています。

配偶者の有無のほうは、書類の上ではシンプルで、空欄のまま出てくるというケースがほとんどです。書き間違いというより、書かれていない。ただし空欄のままでは処理を進められないので、本人に確認することになります。この確認は聞きにくい場面になりやすいので、聞き方については別の記事にまとめました。

一方、扶養者の年収の欄は、空欄だけでなく間違った数字が書かれてくることが多く、原因も少し複雑です。この記事では、こちらのほうを中心にお伝えします。

原因は「年収」と「所得」を混同していること

扶養者の年収の欄で間違いが起きる一番の原因は、年収と所得をごっちゃにしていることです。この2つを混同している人が、体感で一番多いと感じています。

年収は、給与としてもらった金額そのものです。一方、所得は、その年収から一定の控除を差し引いた後の金額を指します。申告書に書いてもらうべきなのは扶養している家族の所得なのですが、年収の金額がそのまま書かれてくることがあります。数字の意味を知らないまま欄を埋めているので、間違いというより「そもそも別のものだと知らない」という状態に近いと感じています。

所得の金額は、収入から給与所得控除などを差し引いて計算しないと出てきません。普段の生活で「所得」という言葉を使う場面はあまりないので、この2つを同じものだと思ってしまうのも無理はないと思っています。

実際に書かれてくる数字は、だいたい4パターン

私が確認していて実際によく目にするのは、次のような数字です。

  • 手取り額を書いている
  • 月収を書いている
  • 前年の金額を書いている
  • 空欄のまま出してくる

並べてみると、いずれも「所得として書くべき正しい数字が分かっていない」という一点でつながっています。金額が書かれていても空欄であっても、根っこは同じです。

添付書類の不備は「つけ忘れ」がほとんど

扶養控除等申告書のほかにも、添付書類の不備で差し戻しが発生します。ただし、こちらは書き方の間違いではなく、証明書そのものを添付し忘れているケースがほとんどです。

私の場合、添付漏れが多いのは生命保険料の控除証明書と、住宅ローン関係の書類です。住宅ローン控除は必要な書類が複数あるぶん、そのうちの一部だけが出てくることもあります。

年収と所得の混同のような「理解のズレ」と違い、こちらは単純な出し忘れなので、確認さえすればすぐに気づけます。同じ差し戻しでも、原因としての性質はまったく違います。

つけ忘れを防ぐために特別なことはしておらず、口頭で説明するようにしています。書面で細かく案内するより、そのほうが伝わるというのが実感です。

1件10分、長いときは1時間かかります

差し戻し1件あたりにかかる時間は、だいたい10分程度です。ただし、内容によっては1時間ほどかかることもあります。150人分となると、この積み重ねは決して小さくありません。

時間がかかるのは、書き直してもらえば済む話ではないときです。私の場合、長引くのは決まってそもそもその人が扶養に入るのか入らないのかを判断する場面でした。数字を直せば終わりではなく、事実関係を確認したうえで判断しなければならないので、どうしても時間がかかります。

記入例を配っても、効果がありませんでした

この負担を減らそうと、以前は記入例を配ったこともあります。ですが、結果として意味がありませんでした。

理由を考えてみると、記入例が教えてくれるのは「どこに何を書くか」という書式の話であって、「年収と所得は違うものだ」という前提の理解までは教えてくれないからだと思います。書式が分かっても、そもそもの言葉の意味を知らなければ、結局は年収の金額を書いてしまいます。

いまは記入例を配る代わりに、「わからないんだったら聞きに来てください」と伝えるようにしています。書式を先回りして説明するより、分からない人がその場で質問できる状態を作るほうが、結果的に差し戻しが減ると感じています。

実際に聞きに来てもらったときは、計算シートを見せながら説明しています。年収と所得の違いを言葉だけで伝えようとしても、なかなか伝わりません。実際の計算の形を目で見てもらったほうが早い、というのが繰り返してきた結果です。

150人分を確認するときに見ている順番

大量の申告書を確認するときは、見る順番を決めておくと早く終わります。私の場合は、配偶者欄、扶養者欄、添付書類という順で見ています。差し戻しにつながる間違いが、この順に多いからです。

順番 見る場所 よくある間違い
1 配偶者欄 空欄のまま
2 扶養者欄(年収) 手取り額・月収・前年の金額を書いている、または空欄
3 添付書類 生命保険料の控除証明書、住宅ローン関係の書類のつけ忘れ

差し戻しが必要になったときは、書類を直接返す、本人を呼ぶ、付箋を貼っておくといった方法を使い分けています。相手が席にいるかどうか、その場で説明が必要かどうかで変えています。

同じ「差し戻し」でも、原因が理解不足なのか、単なる出し忘れなのかによって、必要な対応は変わってきます。記入例のような一律の対策よりも、原因の性質に合わせて対応を分けたほうが効果があるというのが、実際に試してきた実感です。

まとめ

年末調整の差し戻しで一番多いのは扶養控除等申告書で、原因の多くは「年収」と「所得」の混同です。手取り額や月収、前年の金額が書かれてくることもあれば、そもそも空欄のこともあります。記入例を配るだけでは効果がなく、聞きに来てもらったうえで計算シートを見せながら説明するほうが、結果的に差し戻しを減らせると感じています。

確認するときは、配偶者欄、扶養者欄、添付書類の順に見ていくと効率よく進みます。証明書の添付漏れのような単純な出し忘れと、年収と所得の混同のような理解のズレは性質が違うので、原因ごとに対応を分けて考えることをおすすめします。

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この記事を書いた人

中小企業の経理20年目。日商簿記2級。教科書に載っていない実務のつまずきどころを書いています。

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