年末調整で聞きにくいことの聞き方|怒鳴られて見つけた確認のしかた

年末調整で聞きにくいことを確認する経理担当者のイメージ
目次

年末調整には、教科書に載っていない難所がある

年末調整の担当になったけれど、扶養控除等申告書を確認していて手が止まった。そんな経験はないでしょうか。

去年まで書かれていた配偶者の名前が、今年は消えている。
これは、本人に聞かないと処理が進みません。でも、どう聞けばいいのか、誰も教えてくれません。

私は中小企業の経理を20年やっていますが、年末調整は他の経理業務と決定的に違う点があると感じています。それは、手順ではなく、人に踏み込まなければならない場面があるということです。

申告書の書き方や数字の確認であれば、経験を積めば慣れていきます。しかし、相手のプライベートに関わる確認だけは、慣れだけでは解決しません。私自身、20年経った今でも、この場面では毎回すこし身構えます。

この記事では、扶養控除等申告書の記載内容を本人に確認するときの、聞きにくいことの聞き方について書きます。

年末調整で聞きにくいことを確認する経理担当者のイメージ
年末調整で聞きにくいことを確認するイメージ

なぜ経理が、ここまで踏み込まなければならないのか

そもそも、なぜ年末調整では家族の状況を確認する必要があるのでしょうか。

配偶者控除や扶養控除は、扶養している家族がいるかどうかで税額が変わる制度です。だからこそ申告書には、配偶者の有無や扶養親族の人数を、毎年正確に書いてもらう必要があります。そして経理は、その記載が前年から変わっていないか、実態と合っているかを確認する立場になります。

普段の経理業務は、伝票や請求書といった「モノ」を相手にする仕事です。ところが年末調整だけは、家族構成という「人」の情報を扱います。ここに、他の業務にはない難しさがあると感じています。

この点は、国税庁の資料や税理士事務所の解説記事を見ても、あまり触れられていません。書類の書き方や控除額の計算方法は詳しく説明されていても、「本人にどう確認するか」までは書かれていないのです。実際に150人規模の従業員から申告書を集めている立場からすると、ここが一番悩ましいところだと感じています。

新人の頃、私はこれが聞けませんでした

新人だった頃、一番困ったのが配偶者の有無の確認でした。

前年の申告書には配偶者の名前が書かれていたのに、今年の申告書には書かれていない。理由はおそらく離婚です。でも、それを本人に確認する勇気がありませんでした。

「離婚されたんですか」なんて、とても聞けません。プライベートな事情に、経理という立場から踏み込んでいいのか。そもそも自分に聞く資格があるのか。そう考えているうちに時間だけが過ぎていきました。

結局、新人の頃の私は、この手の確認が必要な場面では上司に代わってもらっていました。今思えば、それでよかったと思っています。無理に自分で聞いて、相手を傷つけるよりはずっとよかった。聞けないことを、聞けないまま放置しない。そのための代役を頼める相手がいるかどうかは、実は大事なことです。

当時の私が困っていたのは、聞き方がわからないことだけではありませんでした。「これは経理が聞いていい範囲のことなのか」という、境界線そのものがわからなかったのです。用紙の意味も、何を聞けばいいのかも、何が正解なのかもわからない。年末調整の担当になったばかりの頃は、そんな状態が当たり前だと思います。

「なんで、お前に教える必要ないだろ」と言われたこと

年数を重ねて、さすがに自分で確認するようになってからも、うまくいかないことはありました。

ある年、配偶者の記載が前年と変わっていた方に、聞き方を誤って怒鳴られたことがあります。

「なんで、お前に教える必要ないだろ」

正直、気まずいというより、その場で固まってしまいました。こちらは書類を正しく処理したいだけなのに、なぜそこまで言われなければならないのか。当時は納得できませんでした。

でも、今振り返ると理由はわかります。書類の不備を指摘する感覚のまま、家族構成の変化にも同じように「理由」を聞こうとしていました。相手にとっては、経理から突然プライベートな理由を聞かれたように感じたのだと思います。私が「なぜ変わったのか」を聞こうとしていたからです。理由を聞かれれば、答えたくない人がいて当然です。

この経験があってから、私は聞き方そのものを変えました。

理由を聞かない。事実の差異だけを伝える

今、私が配偶者の記載が変わっている方に確認するときは、次のように伝えています。

「前年は記載がありましたが、今年は記載がございません。」

これだけです。「離婚されたんですか」とも「どうしてですか」とも聞きません。

この言い方には、3つの意図があります。

1つ目は、理由を聞いていないこと。聞いているのは「変わっているという事実」だけで、「なぜ変わったのか」ではありません。

2つ目は、書類と書類を比べた差異を述べているだけであること。私が本人を問い詰めているのではなく、前年の書類と今年の書類の間に食い違いがある、という客観的な事実を伝えているだけの形になります。

3つ目は、説明するかどうかを相手に委ねていること。この聞き方であれば、相手は「はい、変わりました」の一言で済ませることもできます。事情を話したい人は話してくれますし、話したくない人は事実だけ認めれば処理が進みます。どちらでも困らない聞き方です。

私の場合は、こうした確認は必ず1対1になる場所で行うようにしています。人前で聞くと、相手が身構えてしまい、事実の確認すら難しくなるからです。慣れた今でも、聞く場所だけは毎回意識しています。

聞き方の比較と、場面別の言い方

ここまでの内容を、実際に使える形でまとめます。年末調整で確認しにくい場面に出会ったときは、次の比較を思い出してください。同じ内容を確認する場合でも、言葉の選び方ひとつで、相手が受け取る印象は大きく変わります。

聞き方による相手の受け取り方の違いを表すイメージ
聞き方による受け取り方の違い
聞き方相手が感じること結果
「離婚されたんですか」理由を詮索されている身構えられる、反発されることがある
「どうして変わったんですか」説明を強要されている答えたくない人には負担になる
「前年は記載がありましたが、今年は記載がございません」事実確認をされている「変わりました」の一言で処理に進める

このまま覚えて使える形にすると、次のようになります。

確認したい変化使える言い方
配偶者の記載が消えている「前年は配偶者の記載がありましたが、今年はございません。ご確認いただけますか」
扶養親族の人数が減っている「前年より扶養の人数が1名減っているようです。今年分でお間違いないでしょうか」
控除証明書が添付されていない「証明書の添付が見当たりませんでした。お手元にあればご提出をお願いします」

共通しているのは、「なぜ」ではなく「何が変わったか」を伝えるという点です。理由を聞く言葉を使わないだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。

控除証明書のつけ忘れのように、単純な書類不備の指摘であれば、この言い換えはそこまで気にする必要はありません。気を配るべきは、家族構成のように、相手の事情が関わってくる項目に限られます。すべての確認を身構えながら行う必要はなく、性質によって伝え方を切り替える、という考え方で十分です。

あわせて、確認する前に次の2点も意識しておくと安心です。

・必ず1対1になれる場所で確認する(人前では聞かない)
・どうしても自分で聞きにくいと感じたら、無理せず上司に頼む

新人のうちは、後者を選ぶ場面のほうが多いはずです。それで構いません。私自身、最初の数年はそうしていました。

まとめ

年末調整の書類確認は、他の経理業務と違って、相手のプライベートに触れる場面があります。これは制度上避けられないことで、聞き方に工夫があるだけで、聞かなくていい方法はありません。

理由を聞かず、事実の差異だけを伝える。説明するかどうかは相手に委ねる。そして、聞く場所を選ぶ。これだけで、確認はずいぶん進めやすくなります。

特別なテクニックではありません。言葉の選び方をひとつ変えるだけです。それでも、聞かれる側の受け取り方は大きく変わります。

新人のうちは聞けなくて当然です。聞けないと感じたら、上司に代わってもらうという選択肢があることも、覚えておいてください。

私自身、聞き方を変えてからも、うまくいかないことはあります。それでも、理由を聞かず事実だけを伝えるようになってから、以前ほど身構えられることは減りました。年末調整のたびに緊張していた新人の頃の自分に、この言い方を教えてあげたいと思っています。

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この記事を書いた人

中小企業の経理20年目。日商簿記2級。教科書に載っていない実務のつまずきどころを書いています。

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